数多くのヒット映画作品を生み出す是枝裕和監督。自身初の韓国映画として制作された最新作『ベイビー・ブローカー』は、カンヌ国際映画祭にも出品され、主演のソン・ガンホが男優賞を受賞し、話題となりました。家族間の光と闇を鋭く切り取りや、胸の奥がじわりと熱くなる是枝作品。今回は、カンヌ国際映画祭で受賞歴のある世界的に衝撃を与えた3作品を紹介します。
目次
是枝裕和監督・心に響く名作3選
①誰も知らない(2004年)
あらすじ
都内のアパートで暮らす母・けい子(YOU)と明(柳楽優弥)、京子、茂、ゆきの父親違いの4人の兄妹。明以外出生届の出されていない妹弟は、存在が明るみになるとアパートから追い出されるため外出できませんでしたが、仲睦まじく暮らしていました。しかし、新しい恋人ができたけい子は次第に家に帰らなくなり、お金だけを置いて消えてしまいます。けい子が送るわずかな現金で生活を送ることになった明たちは、子供たちだけで生き延びようとしますが・・・。
みどころ
1988年に東京都で実際に起こった「巣鴨子供置き去り事件」をモチーフにした、育児放棄(ネグレイト)問題を取り扱った作品です。2008年カンヌ国際映画祭で主演の柳楽優弥が史上最年少で男優賞を受賞し、世界を驚かせました。是枝監督作品に欠かせない子供たちの自然な表情や言葉を引き出すために、台本を渡さず口頭で指示する方法を取り入れた最初の作品となります。ストーリー自体は救いようのない悲惨なものであるのに対し、子供たちの目線で描かれる生き生きとした生活や悪意のない母親の存在が印象的で、そのギャップがより深い余韻を残します。
②そして、父になる(2013年)
あらすじ
大手建設会社で働く野々宮良多(福山雅治)は、都心の高級マンションで妻・みどり(尾野真千子)、6歳の息子・慶多と何不自由ない生活を送っていました。ある日、慶多の生まれた病院からの電話で、息子が出生時に取り違えられたことが発覚。相手先は群馬県で小さな電気店を営む斉木夫妻(リリー・フランキー、真木よう子)のもとで3人兄弟に囲まれて育った男の子・流晴でした。子供の将来のため、早いうちからお互いの息子を交換した方が良いという病院の提案に従い、両家は交流を始めますが・・・。
みどころ
子供の取り違えというショッキングな出来事に翻弄される2組の夫婦の苦悩と子供たちの戸惑いを描いたヒューマンドラマです。2013年にカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、審査員賞を受賞しました。映画界の巨匠スティーブン・スピルバーグ監督が大絶賛し、ハリウッドでのリメイクも決定しています。
仕事はできるけれど、人の気持ちに鈍感な父親役の福山雅治、慎ましい生活を送りながらも、家族思いの父親をリリー・フランキーが演じ、ルックスや佇まいなどのキャラクター設定が絶妙に自然でさすがだなと思わせられます。取り違えをきっかけに巻き起こる登場人物たちの、それまでの生い立ちや感情の波が、セリフだけではなく表情で表現されていて分かりやすいのがこの作品の魅力でもあります。
③万引き家族(2018年)
あらすじ
高層ビルに囲まれた下町のボロ家に住む治(リリー・フランキ)と信代(安藤サクラ)夫婦、息子の祥太(城桧吏)、信代の妹・亜紀(松岡茉優)、祖母の初枝(樹木希林)は、初枝の年金を頼りにしながら、足りない生活費は万引きで賄いながらも楽しく暮らしていました。ある冬の日、近所の団地の廊下で寒さに震えていた小さな女の子を見かねた治は、女の子を家に連れて帰ります。一目で親から虐待されていると分かった信代は娘として育てていこうとしますが、あることがきっかけで家族の絆が崩れていき・・・。
みどころ
年金の不正受給問題に潜む貧困や家庭内暴力などの社会問題を軸に描かれる家族の物語です。2018年カンヌ国際映画祭で最高賞にあたるパルムドールを受賞し、世界的映画監督としての確かな地位を築き上げました。
家族の在り方を社会に対して問いかける意味での深さは是枝作品の中でも群を抜いているのではないでしょうか。女の子を自分の子供として育てると決意した信代が放つ「自分で選んだ方が強いんじゃない?絆って」というセリフが胸に突き刺さります。また、今は亡き樹木希林の穏やかな表情、安藤サクラが見せる涙、リリー・フランキーの人生を諦めたかのような緩い生き様など、役者たちの自然な演技もかなり見応えがあります。
まとめ
どの映画も心に響く是枝作品。何気ない日常を丁寧に切り取り、ドキュメンタリータッチで描かれる家族の物語は、多くの人の感情を揺さぶります。そんな是枝監督の最新作『ベイビー・ブローカー』は、2022年6月24日(金)に日本で劇場公開され、主演のソン・ガンホはじめ、韓国の人気俳優カンドンウォン、日本になじみのあるペ・ドゥナも出演し、物語に深みをもたらします。是枝監督と韓国のキャストたちが紡ぎだす新たな家族の物語を見る前に、今回紹介した作品を鑑賞し、是枝ワールドを今一度堪能しましょう!